名も知らぬ草に blog

管理人:草(そう)

・アンデルセン童話集3 /あの女はろくでなし 

 

 

 

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 このまえ古書店で購入。 アンデルセン童話集3「あの女はろくでなし」(山室静 訳)より抜粋。

 


 「あの方がなくなりましたか!ほんとうにいい方でした。神さまだってあんな方は、そうたくさんはごぞんじないでしょうよ」
 そう言っているうちに、涙が頬をつたって流れました。「ああ、どうしたのかしら?目まいがする____ 一びんすっかり飲んでしまったからだわ。わたしはこんなには飲めないんだもの。____とても気分がわるい!」 こう言って、そばの板がこいにつかまりました。


 「おや、ずいぶんわるそうですね」と、マーレンおばさんは言いました。「なに、じきによくなりますよ。____いや、いけない! あんたはほんとに気分がわるいんだ!家へ帰った方がいい。わたしが連れていってあげます」
 「でも、洗濯物が!」
 「それはわたしが引受けますよ。さあ、わたしの腕につかまって! 坊やここにのこって、しばらく番をしていてもらいましょう。わたしがもどって来て、のこりは洗います。あとはいくらもないんだもの!」


 洗濯女の足はふらふらとよろけました。
 「あまり長く冷たい水の中に立っていすぎたんだわ! それにけさからまだ、水一ぱい、パンひときれも口に入れてないんです。からだに熱がある! おお、イエスさま! どうぞ家まで帰る力をお与えください! それから、かわいそうなこの子を!」
 こう言って母親は泣きました。
 男の子も泣きましたが、すぐ、川岸のぬれた洗濯物のそばにひとりですわって、番をしました。
 おばさんと、足のふらふらする洗濯女とは、ゆっくり横町をのぼって行きました。

 

 

 (中略)
 母親はやっと正気にかえり、自分の貧しい家に連れていかれて、ベッドに寝かされました。
 親切なマーレンさんは、バタと砂糖を入れたビールをいっぱいあたために出て行きました。おばさんは、これがいちばんよくきく薬だと信じていたのです。
 それから洗い場へ行きました。洗濯物のすすぎ方はへたでしたが、でも思いやりからしたことです。そうはいっても、ほんとうはぬれた洗濯物を岸にひきあげて、桶の中に入れただけですがね。

 


 夕方、おばさんは洗濯女の貧しい部屋にすわっていました。
 おばさんはジャガイモの焼いたのを二つ三つと、上等のハムをひときれ、町長さんの料理女のところから、病人にもらってきてやりました。それは男の子とマーレンさんとでおいしく食べました。
 病人はそのにおいをかいで、それだけでも滋養になるといって喜びました。


 やがて男の子は、寝床にはいりました。それは母親の寝ている同じベッドでした。ただ母親の足の方に、ななめに横になったのです。そして、青と赤のひもをぬい合わせた、古い毛布にくるまりました。
 洗濯女は、いくらか気分がよくなりました。あたためたビールが力をつけ、おいしい料理のにおいがききめがあったのです。
 「ありがとうございました。あなたはなんて親切な方でしょう!」と、母親はマーレンさんに言いました。

 

 

 

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Quincy Jones & Toots Thielemans  -  "Velas"