きのう。病院。先生のおうちのお雑煮はどんなふうですか?と訊いてみた。 そぉね、母親がね、骨を煮込んでたね……と先生。 関西出身だけど、お雑煮はお味噌仕立てではなかったとのこと。
きのうは、その病院のロビーで診察を待っているあいだ、こんなことがあった。診察を終えて帰る80歳くらいのおばあちゃん。上着を羽織り、前身ごろのファスナーをしめようとするのだけど、ファスナーのくちが生地をかんでしまって、上にも下にも動かない。
「あら、あ…… あら」と困っているおばあちゃんの細い手指はふるえて、おぼつかない。 わたしは『あ。あ、どうしよう……』とオロオロ見ているだけ。
すると、その前のソファに腰かけていた夫婦連れらしき60歳代後半の男性がその様子に気付き、さっと立ち上がり、「だいじょうぶですか、」とおばあちゃんに代わってファスナーに取り掛かる。
「この下のほうから、くってますね」と言いながら、ファスナーのくちの引っ掛かりを解いて、あらためてファスナーをおばあちゃんの首元までとじてあげる。おばあちゃんは恥ずかしそうに微笑んでお礼をいいながら帰っていった。
わたしはというと、人の温かさにジーーンとなった。
もし、東京を冷たい街とかコンクリートジャングルだとか感じている人がいたら、ぽそっと言いたい。 東京って。こんなところ。
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生まれた街で - 荒井由実