名も知らぬ草に blog

管理人:草(そう)

・ダッチ アイス珈琲 /文明堂のかすてら。カツサンド /道場やぶり? 江戸っ子おかあさん /幻 /イマジン。さとりのしょ。クライズラー&カンパニー。新世界。/シュガーベイブ 。想い。風の世界。 

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 どうしてか。わからない。


 ダッチ。 クラッシュアイスと珈琲の、5:5。オランダ語で「半分」という意味だとか(おぼろげ)。 高校2年の秋~翌春のころ、放課後に(2~3時間だけ。それでもバイト終わりにはヘロヘロ。通学と学校の授業だけで気力が果てる。 お店は7時閉店。)アルバイトしてた珈琲店。 お店の先輩Hさんから(高校3年)「お店に来たときはね、もう外が暗くても【おはようございます☆】っていうのよ b(^o^)」と教わった。
 そのお店ではアイスコーヒーを【ダッチ】と呼んでいた。 たしか。温かいブレンド350円。ダッチアイス珈琲は400円。チーズケーキは380円。 チーズケーキは2皿ぶん焼くのだけど、8切れ×2=16個。男の人のお客様もみんなそれのファンで「甘いケーキは苦手だけど、ここのチーズケーキは最高に美味しいんだよ(^^*)」。すぐに完売してなくなる)。
 お客様から「じゃあアイスコーヒーいただくわ☆(^^*)」と注文されると、カウンターのなかのおかあさん(そのお店のおばあちゃん。バイトの女の子みんなに「アタシのこと、【おかあさん】って呼ぶんだよ。(いつもお会計のところに座って片耳イヤホンでラジオを聞いているマスター:ご主人。いるのかいないのか気配のない人)あれは【おとうさん】ね。」と言っていた。)
 アイスコーヒーの注文が入るとおかあさんか先輩のHさんかMさんに「ダッチひとつ、おねがいしまーす b(^o^*)」と伝えて、お客様の卓上に、お皿にのった熱いおしぼりと、つめたいお水、ストロー、シロップ、銀色のふた付きのミルクポット(ミルクは冷蔵庫に冷やしてある。たしか乳脂肪分47%)を運んでおくのだった。 白いくつしたに黒のワンストラップ靴で、せまい店内をよちよち歩き、体をよりいっそうひねるようにして、カウンター席はお客様の右のほうからソーっとものを置く。
 そのお店のダッチは、通りに面した出窓の大きなフラスコ?から一滴一滴おちる水出し珈琲で、ホット珈琲もだけど、おいしかった。 たしかあの豆、キャラバン珈琲てゆったかな(マッチ箱に記されていた)。


 その珈琲店は路地にあるため、お客様はほとんど常連さん。珈琲専門店だから色んな種類のコーヒー豆をそろえているのだけど、みんな、たのむものが決まっていた。あのおじさんはブレンド、あの奥様たちは紅茶、あのひとはブラジル。社長はブルマン、ブルマンにはいちばん豪華な脚つきのカップ&ソーサー、飾りのきらびやかなスプーン。おかあさんの娘さんの(50代)旦那さまはカウンターのあの席(休日にふらりときて、静かに新聞をひらいてる。おだやかで優しそうな人)。というふうに。

 ある午後。おかあさんが「〇〇ちゃん、ちょっと駅の文明堂でカステラ買ってきてちょうだい。」 お客さんに出すのかな?と思いながらお店のピンク色のエプロンのままとことこと文明堂へ行ってカステラを購入。2~3千円もするんだ('o')とびっくり(ウチで食べるヤマザキのは500円くらい?)。 お店へもどると、おかあさんがそれを5センチ以上の厚切りにしてケーキ皿にサーブ、カウンター内のHさんとわたしに「おやつよ☆(∂_∂*)」という。 文明堂のかすてらは初体験。卵色の生地はねっとりと甘く(わたしには甘すぎて)、しっとりなめらかで、天面の茶色いカラメル?が香ばしかった。Hさんのたててくれた美味しいブレンドコーヒー(ブラックで飲むのも初体験)とともに、なんとか食べきった。
 いつも6時にまかないの夕ご飯がでて、カウンター内のHさんかMさんとホール係の(ウェイトレス)わたしが交代で食べる(コーヒーまたはダッチアイス珈琲、チーズトーストあるいはピザトースト、&ベーコンエッグまたはスクランブルエッグ、&マカロニサラダ、キャベツのコールスロー。ボリュームたっぷり(+_+))
 またある夕方。 おかあさんが「〇〇ちゃん。ちょいとガード下のお肉屋さんで、ヒレカツ2枚とシュウマイ10個、買ってきて。」 お客さんから注文されたのかなと思いつつ小走りで行って(お肉屋さんでカツを揚げてもらって)購入したものを胸に抱いてお店に帰る。シウマイがひとつ100円くらいして驚いた。
 するとおかあさんはキッチンで何かして、木製のお皿にカツサンド(4枚切りのパンは焼き目がつけてある)×2、大きなシウマイひとり3個ずつ、それと温かいブレンドコーヒー。おかあさんと先輩Mさんとわたしの夕飯。 えー。あのカツってわたしたちのだったの?!こんな豪華な大盤ぶるまいの夕飯なの?? そんなことしたら赤字でしょ?いいの?ほんとに??(@_@)とびっくりしながら食べた。もちろん超おいしい。あんなに大きくてジューシーなシウマイ生まれて初めて。
 おかあさんはチーズケーキの生地に入れた缶ビールの残りをぐいっとあおり、こう言う。「まえは浅草でやってたのヨ('ω') で、いまは(沢田育ちの)おとうさんのここをやってんのさ(^_-)-☆」 あ、浅草……。それでこんなにキップが(気風)いいんだ('o'*)

 


 あるとき、そのお店にいちげんさんらしきおじいさんが入ってきた。鳥の羽根のついた、こじゃれた帽子を意味ありげに脱ぐと、カウンターの椅子にふんぞり返ってドカっと座り、「メキシコはあるか」「ありません」「ケニアは?」「ありません」「エチオピアは?」「ないです。」「△△□□は?」「あぁ、それもないんですよ、すみません。」 おじいさんは店内のメニューをみながらしつこく、きいたことのないコーヒー豆の名前をあげて、おかあさんがきちんと答える。わたしはそのあいだで銀色の丸いお盆を胸に抱いてオロオロ。
 ひとしきりそんな問答が続いたあと、おじいさんは勝ち誇ったように怒鳴った。「なんだこの店は! ろくなコーヒーもないのか?!( ̄ー ̄) 」 店内が凍りついた(おかあさん以外の。マスター、先輩のMさん、わたし、常連のお客さんたち)。 道場やぶりならぬ、喫茶店やぶり?? みんな息をのんでなりゆきを見守っている。
 するとおかあさんが(浅草のひと、80いくつ、小柄で、深紅のルージュ)「あいにくそんなものは置いてません。そういうコーヒーが飲みたきゃ、他へ行ってちょうだいっっ。」と、きっぱり言い放った。
 文句たれジジィは「、、、んん。むぉう。 じゃあ、ブレンドでいいよ……」といって、なぜか身をちぢこめておとなしくブレンドを飲み、そそくさと帰っていった。店内の空気がホッとゆるんで、みんなヤレヤレと胸をなでおろした。


 それにしても。おかあさんは爽快だった。 さすが浅草のひと、ちゃきちゃきの江戸っ子(@_@) かっこいい。と感動した。 あのとき居合わせた常連のみなさんもスッキリしたと思う。

 あの珈琲店。おかあさんもおとうさんも高齢となり、かなり前に店をたたんでしまった。 あそこの珈琲はとびきり美味しかった。チーズケーキも絶品。はじめて食べたとき、ほっぺた落ちたもん。ほんとにズキーン。として。濃厚なチーズにくらぁっとなった(@_@) あれをつくるとき、おかあさんの横でお手伝いはしていたけど。つくりかた、よくみておけばよかった。二度とたべられない。 いまはもうまぼろし